Scene
その1
とある町のとある風景
 

 

 

 

 

 


タラップを一歩ずつ降りると異様な香りが漂ってくる。次第に強くなって来るその香りは、未だ嗅いだことも無い香りであった。何処でも、その土地独特の香りを持っているものであるが、乾燥した粘土を思わせる。町並みは何処となくヨーロッパ風の建物だ。

バス停を探した。ポンコツバスが、煙を撒き散らしながらやって来る。乗客を確認して、はて・・? 乗って良いものかと思案する。構わないよな。

降りろと言われたら降りるだけさ。バスに乗って良いものかと思案しなければならない。なんてえ町だこの町は・・・・・・。一人バスに乗り込んだ。乗客達は黙ったまま、バスの揺れに合わせているかのようである。年老いた御老人が、微笑んだ。白い歯がくっきりと、浮き上がるように見える。微笑を返した。「何処から来なさった? 」日本からだと答えると、乗客達から一斉に視線を浴びる。「ああ、日本ね」知っている様子である。バスが止まった。乗客が降りて行く。老人も、「じゃね」と言って降りて行った。

少し走ると、繁華な通りであった。降りるとするか。

行き交う人は、歓迎されない東洋人を見るようにして遠ざかる。お店の様子は、それ程の派手さは無く、品物も豊富のようだ。

「マッチス」と言って、男が右手を出す。マッチがどうしたって言うんだい? 「マッチス」と、又手を出して付いて来る。マッチをくれと言ってるのかい。男の言葉が、英語に変わっていた。「・・・マッチをくれたら、麻薬をあげる」何処にあるんだいその薬は?  持っていないと言う。

男は、待ち合わせの場所を指定した。その場所に持って来るという男に、ポケットからマッチを取り出して渡した。男に、マッチをくれてやった。欲しい物を手に入れたら、待ち合わせの場所に来る訳ないだろう。さっさと、うせろ。小銭じゃなくて、マッチを欲しがるとは、一体どういうことだろうか。

それから数年して、クーデターが起きていた。独立したと言う話を聞いたのは、それから直ぐであった。弾薬の類を、必要としていたのであろう。マッチを欲しがった訳が、その時初めて解った。

 

外は雨が降っていた。窓越しに見える町並みが霞んで見えている。ラジオのスイッチを入れると、音楽が流れる。何とも言えないロマンチックなラブストーリーである。流れるポップスに酔いしれていた。

ノックの音に、ドアを開けた。公園を散歩に行かないかとの、友人の誘いである。もう、雨はとっくに止んでいたのか・・・。ラジオのスイッチを切り、外へと出た。自転車に乗るスポーツウェアの人や、ジョギングの人達がすれ違う度に、「やあ、元気かい?」と、挨拶をしてくれる。何とも清々しい公園だ。

芝生の上で遊んでいたリスが、木に登って行く。夕暮れであった。湖に似た海に、大きな夕日が落ちようとしている。綺麗だ。大自然の恵みのように思える。

公園を回るジョギングの人の数が、増えているように思える。友人は、ダウンタウンへ行こうと誘った。

ネオンの灯が点灯し始めている。百万ドルの風景? 見知らぬ人の服のセンスの良さに、振り返った。「可愛いね」君もそう思うかい? 「ああ、恋人にしたいくらいさ」 恋人はいるんだろう? 彼の恋人の顔が浮かんだ。ギターの弾き語りが上手い素敵な人だった。

 

ホテルの最上階は、レストランである。予約は取ってあるのかとボーイさんに聞かれ、取ってないと答えると、椅子に座って待てと案内される。赤い絨毯がやけに目新しく感じる。ここの料理は、とても美味しいのよと自慢げに話す。どんな料理が一番美味しいのかい? 「全部よ。とっても美味しいわ」

全部ねえ・・・全部美味しいとは、笑ってしまった。「食べたら、きっと、あなたも気に入るわ。美味しいのよ」 又自慢した。遅くなったと言って、友人が駆け込んで入って来た。お待たせしましたと、空いている席へとボーイさんが案内する。

彼らの注文する料理を、誘われるままに食べた。美味かった。自慢するだけの美味しい料理だ。テイクアウトできないの? 気持ちは分るけど、出来ないんだ。ここは、なんせ紳士が食事する場所さ。・・・ふうん・・・紳士がねえ・・・本当に紳士達が食事をしていた。

ここは、ジーンズで良かったのかい? 大丈夫よ。心配しないでも良いのよ。あなたは、紳士でしょ?  思わず苦笑いをしていた。

 

                                   [ページの先頭に戻る]

 

 

 

Home contents

What’s new?

BBS

Mail

Next 次へ進む