2001年9月 |
「ダンゴ?ダンゴ食わせてくれるんだったら何だってするぞ?」 チヂの口から団子の「だ」の字が飛び出すか飛び出さねぇかのうちに悟空さは目を輝かせて叫んだ。 その勢いに、チヂも苦笑いしでら。 まっだく判りやすいやつだ。 「ん?何か言ったか、おっちゃん?」 「いや。なんも」 「そんじゃしっかり頼んだべ」とチヂに言われておらと悟空さがやってきたのは、辺り一面のすすき野原だ。 そこでおら達は十五夜さんに飾るすすきを拾うって寸法だ。 十五夜さんどいえば団子どすすきだ。 まんまるいお月さんにまんまるい団子とすすきを供える。 チヂのおっ母も づまり、おらの嫁さんだ そうやっでお月さんにお供え物しでた。 小せぇ頃のこどなのに、チヂは覚えでたようだ。 「へぇ〜。これがススキってのか〜?」 「なんだお前ぇ、ススキを見るの初めてなのけ?」 「うーーん???」 おらの言葉に悟空さは首を傾げながらすすきを見でる。 「見たことあるような気もすっけど、覚えてねぇや」 ははは と笑う悟空さの顔を見でいたら、何だか昔のごと思い出しちまった。 昔、まだ悟空さがちっせいときだ。 兄弟子の悟飯さんが猿みてぇに尻尾のある子供を拾ったってぎいたっげな。 最初はすんごく凶暴だったらしいけど、いづだったか頭をしこたま打っだらすっがり大人しくなってホントの孫みてぇだって言ってたっけなぁ。 ずいぶん昔のこどみでぇだけんど……。 それがおらの娘婿になるなんで、考えもつがながっただ。 何てこと考えでぼんやりとしでいだら悟空さがきょとんとした顔でおらの顔を覗き込んでいだ。 「ん?なんだ?」 「あ?いや。何でもねぇよ」 「なんだぁ?今日のおっちゃんは何だか変だなぁ」 そう言ってまた ははは と悟空さは笑いながら両手にすすきを抱え込んでいる。 おらがぼんやりしている間に集めだんだろう。 その姿を眺めながらまたぼんやりしぢまっだ。 ――こんなこど悟空さにどっては遊びみでぇなことなのかもなぁ。 考えようによっではこんなに頼りげぇのあるおどこはいねぇだろうげど、いがんせん稼ぎがねぇがらなぁ。 考げぇても仕方のねぇこどだと判っちゃいるが、チヂや悟飯のごとを考げぇると歯がいくなっぢまう。 だども当のチヂがおらを頼ってきでるわけでねぇがら、余計な口出しをするわけにもいかねぇもんなぁ。 「うーーん。なぁ、おっちゃん。こんぐれぇで良いかな?」 「あ?――お…。そりゃまたたぐさん摘んだなぁ」 呼ばれで振り向ぐと、悟空さはさっきの倍ぐれぇのすすきを抱えでる。 「そんなに摘んでどごに飾んだ?」 おらが笑いながらそう訊ぐと、悟空さは困っだようにあだまを掻いで、 「あ!そうだよな〜。 ま、良いさ!せっかくだから亀仙人のじっちゃんとこにも持ってってやろうぜ」 と笑う。 「そりゃあ良い。最近ごぶさだしでるがらな〜」 「そうと決まったらもう少し摘まねぇといけねぇかな」 そういうと悟空さはまた視線を落どした。 おらは悟空さに気付かれねぇように苦笑いすると、慌ててすすき摘みに専念するごとにしだ。 ――いげねぇなぁ。こんな広れぇとごさくるどいろんなこど思い出しちまったり、考え込んじまっていけねぇ。 やれやれ。 親ってな損な商売だべ。 〈おわり〉 BY:大沢 |
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