2001年7月 |
悟空がひょっこりやってきたのは真夏の暑い盛りじゃった。 「よおっ!じっちゃん」 「何じゃ何じゃ。悟空ではないか。何かあったのか?」 わしが驚いてそう尋ねると、悟空は笑って言いおった。 「何だよ。何かなきゃ来ちゃいけねーってのか?」 もちろん、そんなことはないんじゃがな。 すると悟空が頭をかきながら、 「実はさ、チチが悟飯連れて牛魔王のおっちゃんトコに泊まりに行ったんだ。何でもおっちゃんが風邪ひいたとかで落ち着くまで看病すんだって」 「なに?牛魔王が風邪じゃと?」 悟空の台詞にわしは溜息を吐(つ)いた。 「まったくなっとらん。牛魔王め。修業を怠っとるからそういうことになるんじゃ」 「そういえばじっちゃんは元気だよな」 「当たり前じゃ。わしゃ日々、鍛錬をかかしとらんからな!」 わしが胸を張ってそう言うと、家の奥から「レオタードの姉ちゃん達と体操すんのが鍛錬なのかよ!」と鋭い声が飛ぶ。 とほほ。ランチちゃん見てたのね。 「わはははは。相変わらずランチは厳しーなー。今は金髪の方か?」 悟空が笑う。相変わらずなのはお主の方じゃないのか? 「ところで、何しに来たんじゃ?」 「別に。1人でいてもつまんねーし、ここだったらメシ食わせてもらえんじゃねーかと思ってさ」 ずるっ。 何とも悟空らしい台詞じゃ。 そう言う悟空の声が訊こえたのか、奥で「タダで食わせるメシはねぇぞ!!」とランチちゃんが叫んどる。 わしと悟空はしばし顔を見合わせておったが、 「そうだ!魚取りに行こうぜ、じっちゃん」 「魚か?」 「うん!――魚だったらランチも文句言わねぇだろ!?」 悟空が奥に向かって叫ぶと、「取れるもんならな!」という声と共に、いつの間に準備していたのか釣り竿が飛んできた。 「よぉーし!何が何でも取ってやるぞーーー!!!」 ふう。困ったもんじゃ。若いモンは何にでもすぐにムキになりおる。 わしが溜息を吐きながらそんなことを考えておると、 「良し!じっちゃん、行くぞ!!」 「は?わしも行くのか?」 「あったり前じゃんか!!」 いやその、わしは魚取ってこんでもランチちゃんのお料理食べても良いんじゃないかと……。 こりゃーーーーーー!!!!! 悟空のヤツいきなりわしを抱えて筋斗雲に乗りおった!! やれやれ。年寄りはもっと大切に扱かわんか!! ようやく降ろされた場所は昔修業でも良く来た川じゃった。 悟空はぱぱぱっと服を脱いで川に飛び込むと、ばしゃばしゃ水音立てながら進んで行く。 仕方ないからわしもそのあとに続いたがな。 「じっちゃん!」 「なんじ……。ぷわっぷぷっ。何すんじゃ!!」 「へへへ。こーいうのも楽しーなーと思ってさ」 悟空が振り返ったわしに向かって水を飛ばしながら笑っとった。 そういえば、こんなにのんびりと川で過ごすのは初めてかもしれんのう。 わしはふと、わしに子供がいてその子供にまた子供がいたら悟空ぐらいになっとるかもしれんなぁ。なんて考えてしもうた。 ま。今は悟空達が孫みたいなもんじゃがな。 「あ!じっちゃん!魚さかな!そっち行った!!」 「なに!?どこじゃどこじゃ?」 ぼんやりしとったわしは悟空の声に我に返ったがちと遅かったようじゃ。 「だめじゃんかー」 「何を言う!まだまだこれからじゃ!!」 がっかりしたような悟空の声にわしはゲキを飛ばしながら目を細めて悟空を見る。 孫か…。 とにかく見事な大物を持って帰らんとランチちゃんに大目玉を食らうからの。 それだけはカンベンしてもらわにゃな。 〈おわり〉 BY:大沢 |
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