2001年3月 |
「おい」 いい加減イライラしてた俺は我慢できなくなって口を開いた。 こいつは――ターレスは俺の傍で何をするでもなくただ黙って俺の顔とを眺めているのだ。 そんなコトされてイライラしない方がおかしい。 「何だ?」 何だじゃねぇよ。 「何見てんだ」 「お前」 「何で見てんだ」 「見たいから」 バカだ、こいつ。 俺は見つめていた画面から目も離さずに言い放った。 「見るな」 するとこいつは不思議そうに首を傾げたようだ。 「何で」 「気が散る。うっとうしい」 「良いじゃねぇか」 「嫌だッつってんだろ」 それでもこいつはにやにや笑ってる口調で、、 「俺がお前を見てたいんだから良いじゃんか」 「でも俺は見られてたくないッつってんだ」 この台詞に何を思ったのか、突然ぐいっと顔を近づけてきて、 「見られなきゃいいのか?」 「は?……な、何してんだッ」 何考えてんだ、こいつ! 「お前が見るなって言ったんじゃないか」 「だからってそんなことしても良いとは言ってないッ!」 こいつこともあろうにいきなり腰に手を回しやがった! しかも背後からッ!! 「顔見ちゃいけねぇならこうするしかないだろ?それに、前こーゆーの見たんだよな」 「こーゆーのってなんだよッ!」 「こうやって背中から腰を抱いて耳元で言うんだ。―――俺がそばにいるよ」 こいつの台詞と柔らかい息が俺の耳に掛かる。 途端に全身が総毛立った。 それは……ズルイだろッ! 当然俺のアセリはこいつにも伝わってる。こんなに近いんだから。 するとこいつはにっと笑って、 「――感じたか?」 その台詞に今度は全身から火が出るようだった。 「ばっ、ばかやろうッ!離せ離せッ!!」 俺はこいつの手から逃れようとばたばた暴れたが、さほど力が入っているようでもないその腕に縛られて全く身動きが取れない。 「ばか。暴れるなって」 こいつは楽しそうにそう言いながら……。そう言いながら俺のうなじに口唇を這わせた。 「離れろよッ!……ば…かやろ…」 チクショウ!負けるか! 俺は全身に力を入れた。 「いい子だからじっとしてろ」 「お前なんか…き……キライなんだからな……」 のれんに腕押し。と判ってはいても言わずにはいられなかった。 「判ってるさ」 でも、それすらもこいつは軽く受け流してしまう。 「ばかタレ……」 「はいはい。バカで結構。俺は俺が満足すればそれで良いのさ」 何て傲慢なやつッ! 「そういうところがキライなんだッ!」 「ほう。ッてこたぁそれ以外は全部大好きッて訳だな。嬉しいねぇ〜」 「ば!ちがうッ!!」 「良いんだよ。お前の分まで俺が言ってやるから。――好きだ好きだ好きだ」 「うるさいッ!!!」 ばっと振り返って殴ろうとした瞬間。振り上げた腕をするりと避(よ)けて俺の体を抱きしめると、こいつは俺の耳元に口唇を近づけた。 「―――愛してるぜ、カカロット」 そして吐き出された甘く優しくそれでいて俺を縛り付けてしまうほどの力を持った台詞。 ……もうダメだ。 そう思った途端に全身の力が抜けて行くのが判った。 チクショウ!俺の負けだ。 悔しいけど認めたくないけど、悔しいからゼッタイ言わないけど、俺は今こいつのそばにいたいと思った。こいつにそばにいて欲しいと思った。 そして俺はゆっくりと息を吐(は)く。 あとはたゆとうようなゆるやかな時間が広がっていく……。 〈おわり〉 BY:大沢 |
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