2001年2月 |
「ねえ、ママぁ。チョコレートの作り方教えて〜」 なに? チョコレート? ああ。バレンタインね。 ブラがそんなこと言わなければあたしも思い出さなかったのになぁ。 ――よし。一度くらいはアイツに渡してみるか。 何となくそう思ったからブラにはナイショでチョコレート作りに熱中することになっちゃったのよねぇ。 もちろんアイツって言うのは亭主じゃないのよ? 亭主はまた別で大事なんだけどさ。 今回のターゲットはアイツ。 チビの頃から知ってるアイツ。 格好良くなった姿を見てちょっとだけ失敗したかなって思わされちゃったアイツ。 今や2児の父親になっちゃったアイツ。 でも、渡すときが問題よね〜。仮にもアイツは女房持ちなんだからさ。 なんて考えてたらタイミングの良いことに向こうの方から来てくれた。 理由は判ってる。 ウチの亭主とトレーニングするため。 でも、あたしには絶好のチャンス。 トレーニング前のアイツを捕まえてこっそり手渡すことにした。 「ん?なんだこれ?」 あたしが差し出した物を見たアイツは不思議そうな顔をして首を捻ってたけど、 「何か知んねぇけど食いモンなんだな?だったら遠慮しねぇぞ」 そう言っていきなり―――バリバリバリバリ。 あ〜あ。 そんなに景気良く破ったらラッピングの苦労が水の泡じゃないの〜。 「んが?」 あ。もうほおばってる。全く。食べることになると早いんだから。 「んぐんぐ」 どうなの?美味しいの? 「んぐぐっ」 そう。良かった。 あたしは頬杖をついてアイツが食べるのを眺めてた。昔の面影を微かに残したままのような気もするけど、ホントは昔より大きくなった。逞しくなった。 今なら判る。 孫くんは良い男だ。 昔のあたしは孫くんを見抜けなかった。 ――ああ。そうか。だからあたしは孫くんの友達なんだ。 納得。 こうやって端(はた)から眺めて満足していられるから友達でいられるんだ。 いくら似ててもアノ亭主を眺めるだけってのはあたしには酷だもん。 「んぐんぐ――あー。うまかった。よし、特訓開始だー。ごっそーさん、ブルマ」 はいはい。 あたしは肩をすくめて背中を見送る。 ふっと。力が抜けた。 長い間の思いが一瞬にして昇華した感じ。 そうか。 あたしは孫くんが好きだったんだ。 んー。そうじゃない。孫くんは大事な思い出と同じなのね。 失くしたくない、大切にしておきたい思い出と同じ。 いつでも取り出して懐かしさに浸る。そんな大事な思い出と同じなんだ。 だから後に残らない。 だって形のないものだもの。 でも、この気持ちは亭主にはナイショ。 あれで案外ヤキモチ焼きなんだから。ね。 〈おわり〉 BY:大沢 |
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