2000年11月 |
俺は今までサイヤ人であることに不満は持ってなかった。 それどころかサイヤ人であることがどーって考えたことすらなかったってのがホントだ。 ところがいろいろあって俺が息子を避難させた惑星(ほし)。 つまりこの地球だな。は、カカロットにとってすこぶる良い惑星だったみたいだ。 サイヤ人の宿命ッつーのか?そういうモンは仕方ないとしても、こんなに立派に育ったんだからな! バチャッ 「っぷ!父ちゃんナニすんだよっ」 「お。悪ぃ悪ぃ。」 うっかりそばにいたカカロットのケツを叩いたもんだから、湯が飛んじまったぜ。 そうそう。忘れてたけど俺とカカロットは「温泉」ッてやつに来てんだ。 俺がこの惑星を良いとこだっつったのは「温泉」のせいかもな。 ☆ 無事に育ったカカロットはいっちょ前に女房なんかもらってやがった。 チチっていってなかなか良い女だ。(ま、俺の女房には負けるがな) カカロットとの間に悟飯てな息子まで作って、これに滅法厳しいらしい。 なんつーのか?ああ。教育ママだ。 悟飯に対してはそういう才能を発揮してんだけど、俺には結構親切だぞ。 ちっとも凝りゃしねぇんだが、肩なんか揉んでくれたりしてよ。 その嫁がある日ふと呟いたんだ。「お義父さん。そろそろ寒くなったし、温泉なんてどうですか?」 ってな。 「温泉って何だ?」 「温ったけー水溜まりのことだよ。これがすんげー気持ちいいんだ」 「温ったけー水溜まり?」 カカロットの台詞で余計訳が判らなくなった俺に嫁は、「お風呂のことですよ」と説明してくれた。 「風呂?なるほどな。そう言やぁ俺にも判るぜ。仕事のあとに良く入ったもんだ」 ちょっと遠い目になっちまったが、仕事ってのは要するに惑星破壊だけどな。 「まあ確かに風呂ってのは良いけど俺一人じゃなぁ」 俺がそう言うと、なぜか嫁は慌てたように、「じゃあ、悟空さも一緒に行けばいい」と、言い出した。 その台詞に一番喜んだのは、こいつ。 「うひょー!ほんとけ?オラも行って良いのか?」 「なに喜んでんだ?温泉なんて珍しかねぇだろ?お前には」 「それがさ、温泉久しぶりなんだよ、父ちゃん」 ?俺はカカロットの台詞が良く判らなくて嫁を振り返ってみた。そしたら何か苦笑いしてんだ。 その顔でぴんときた。 ははーん。嫁は教育ママだからな。悟飯が生まれてから旅行なんて行ったこともなかったんだろう。 今回だって、邪推すれば俺達を追っ払って静かになったところで、悟飯に勉強させる心算なんだな。ってことぐらいすぐ判る。 もっとも、カカロットのヤツはそんなことなんて考えもしねぇんだろうけどな。 俺もカカロットに倣って嫁の思惑は考えないことにした。 やれやれ。俺もジジイになっちまったのかねぇ。 結局温泉に行ってみたいんだな。 俺達の話を訊いて、一応は大人しくしてる悟飯が、実はもんのすごーく行きたそうな顔してたのに気付いちゃぁいたんだが、嫁の手前おおっぴらに誘うってな訳にはいかなかったんだよな。 許せ、悟飯! ま、そういう訳でカカロットと親子水入らずでの温泉行きが決定したんだ。 ☆ 大体、猿は風呂好きだ。もっとも俺達サイヤ人を『猿』に区分すればの話だがな。 で、初めての温泉は露天風呂ってことになった。 バシャーン! カカロットが真っ先に誰もいない風呂に飛び込んだ。 何だ、こいつ。まるで子供じゃねぇか。 俺が笑いながらあとに続くと、 「牛魔王のおっちゃんがすんげーいい気持ちだったって言ってたんだ」 「牛魔王って誰だ?」 「チチの父ちゃんさ」 ふーん。ってことはカカロットには義理の親父ってわけだな。 ま。だからどうだってわけじゃない。 岩に両腕を預けて足を伸ばす。 うーん。なかなか良いカンジだ。 「うー。温まるなー。これで酒がありゃカンペキだな」 何の気なしに俺が呟くと、 「父ちゃん、これこれ。持ってきた」 「なんだそりゃ?」 カカロットが手にしているのは小さい桶に入れたとっくりじゃねぇか。 俺が驚いて目を丸くしてると、 「実はさ、牛魔王のおっちゃんに教えてもらったんた。風呂ん中で飲む酒は格別だって。父ちゃん飲みたいんだろ?」 なんて手際の良いヤツなんだ。 親はなくとも子は育つってのホントだな。 なーんて俺が感激してんだから、「そんなことわざ誰に教わったんだ?」なんて考えないでくれよな。 ともかく、岩にもたれてとっくりからいただく。 うー。うまいッ! 「きくー」 「うめぇか?父ちゃん」 「ああ。うめぇ!」 「良かった。――あー。うれしーなー。そんでさー」 「そんで?」 突然のその台詞の意味が判らず訊き返すと、カカロットは突然口ごもり、お湯のせいなのか台詞のせいなのかちょっと赤い顔になって、 「温泉に父ちゃんと来られてうれしーなーって言ったんだよっ!」 ジャバッ! そう言いながらカカロットは俺目掛けてお湯を飛ばしやがった。 「っぷ。なにすんだ、こいつ!」 「先刻のお返しだい!」 笑いながらお湯の中を逃げるカカロット。 「待ちやがれっ!」 カカロットを追い掛けながら俺は、今度は無理矢理でも悟飯を連れてこよう。 こいつが口ごもったその先には、「チチと悟飯もいたらもっとたのしーだろーなー」って台詞があったに決まってる。 なんて考えていた。 何にも考えてないようで、ちゃぁんと判ってんだな。 ふと見ると、お湯に月が映ってた。 満月だった。 〈おわり〉 BY:大沢 |
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