2000年10月 |
ときどき考えることがある。 俺様は誇り高き魔族だった筈なのだと。 それなのに最近の俺様はまるで普通の人間のようではないか。 こんなことではいかん。 魔族のプリンスたる俺様が下等な人間どもと迎合する訳にはいかんのだ。 ―――などと考えていたのが間違いだった。 「おっす!ピッコロ!ちょっと付き合ってくれねぇか?」 うっかり自分の思考にのめり込んでいた俺様は、突然やってきた孫の台詞が訊こえなかったのだ。 迂闊にも俺様が孫の存在に気付いたのは肩に掛けられた手のぬくもりのせいだった。 「何か言ったか?孫」 そう答えた瞬間に孫は瞬間移動をしやがったのだ!!! 「?????」 声に出しはしなかったが、俺様の頭の中は疑問符で埋まっていた。 しかも移動した先に待っていたのは何故か孫の女房のチチとかいう女だ。 「おーいチチ。例のやつ頼むよ」 そういう孫の台詞を訊くが早いが孫の女房は手早くばばばと俺様を人形のように扱いやがったのだ!! 数分後。 見たこともない服を着せられた俺様の目の前に満足気に笑っている孫の女房の顔があった。 「き、貴様!何をしやがるんだっ!!」 俺様は自分の姿に怒り狂って孫の女房を怒鳴りつけてみたが、全く効き目がない。 魔族のプリンスも堕ちたものだと溜息を吐(つ)きたくなった。 いや。実際は溜息を吐いたが、その溜息が孫夫婦に判ったかどうかは知らん。 暫く俺様は情けない顔をしていたのだろう。 孫の女房の後ろから楽しげな顔を孫が覗かせていた。 「よし!じゃ、ちょっくら行ってくっからな!!」 そういう孫は早々と着替えをしていたようだ。 孫はすっかり訳知り顔の孫の女房と顔を見合わせて笑うと、あっという間にまた瞬間移動をしやがったのだ!!! またしても数分後。 今度は全く知らない街へと移動させられた俺様は困惑した。 魔族のプリンスが困惑して焦っている図など、とても見せられたものではない。 「こ、ここは何処なんだ一体!?」 怒鳴る俺様に孫は頭を掻きながら、 「いやあ。実はチチが「たまには亭主らしくしてけれ」って言ってよー。買い物頼まれちまったんだ。悪ぃけどつきあってくれ」 「な?ななな何で俺様が貴様の女房のための買い物に付き合わねばならん!」 そう怒鳴ってみたものの、孫は気にも留めていない様子だ。 全く、この男といい女房といい、俺様を何だと思っているんだ!? すると突然。 ひょい 「な、何だそれは??」 珍しくすっかり気落ちしてしまった俺様の目の前に孫が差し出したもの。 「知らねぇのか?ヤキイモ。ってんだ。食えよ、すんげーうめぇから」 「い、いや。俺はいらん」 先刻孫の女房に手玉に取られたのはたまたま油断していたからなのだ。ヤキイモ。 などという下等な人間どもの食べ物など口に入れれば俺様のプライドは粉々だ。 もっとも、俺様は口からものを食べなくても生きていけるのだから食べる必要などないのだ。 「そうか?うめぇのになぁ」 なんだ、その残念そうな口振りは。 俺様のプライドをこれ以上ずたずたにされてたまるか!! そんな俺様の様子を、孫は不思議そうな顔で眺めていた。 数時間その見知らぬ街を荷物を持たされて彷徨ったのち、俺様は解放された。 今日の一日は一体何だったのか? 俺様は自分が下等な人間どもに近づいているのかと思い、寒気がした。 こんなことではいかん!! 次にもしこんなことがあれば。 ―――俺様は断ることができるのだろうか……? 〈おわり〉 BY:大沢 |
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