2000年9月 |
その日は珍しく穏やかな日だった。 朝の修業を終えた父さんは何だかつまらなそうにしていたが、突然、うーんと伸びをして立ち上がった。 「おーい、悟飯。ちょっときてみろ!」 「何ですか?――うわっ」 呼ばれて外に出た僕はびっくりして思わず声を上げた。 そこには雲一つない青い青い空が広がっていたからだ。 父さんは僕の驚いた顔を見ると、 「すげーだろ!」 と、満足そうに微笑って言った。 その顔は子供のように得意気で、僕はそんな父さんが眩しかった。 暫く2人で空を眺めていると、 「なあ、ちょっと散歩しねぇか?」 「たまには良いですね。僕、お母さん呼んできますから先に行っててください」 「おう!」 僕はのんびりと歩き出した父さんの背中を見送ると家の中に駆け込んだ。 洗い物をしている母さんに声を掛け、父さんを追い掛ける。 「お父さぁーん!」 「おうっ!」 僕の声に振り返った父さんの笑顔と後ろに広がる青い空。 その眩しさに思わず目を閉じてしまいそうになった瞬間、空にキラリと光るものを見つけた僕は、 「お父さぁーん!筋斗雲ですよー!」 「え?――あ。おーい!筋斗雲ぅーん!お前ぇも散歩かー?」 父さんの言葉に僕はクスリと笑うと、「違いますよ」 「筋斗雲はきっとまた一緒に冒険しようって言ってるんです」 「そっか!――筋斗雲ぅーん!そのうち遊ぼーなー!」 空に向かってそう叫びながら手を振る父さんの頭上を2・3度旋回した筋斗雲は、スピードを落として僕たちに付いてくる。 そのとき後ろから母さんの声が訊こえた。 「おーい!チチ!!こっちだぞぉー!」 母さんを呼ぶ父さんの笑顔。 父さんの背後に広がる青い空。 ――涙が滲んだのはどちらのせいだろう? 青くて遠くて広い空。 父さんはそんな空に似ている。 〈おわり〉 BY:大沢 |
■TOP絵置き場へ■ |
■TOPへ■ |