手と手と手
大沢洸



 気が付くと、オラは真っ暗な闇の中を歩いでた。
 あんまり真っ暗すぎて、目を開けているのか、閉じているのか、そんな簡単なこどすら全然判んねぇ。
 でもたぶん…目は開けでるはずだ。
 んだって、目を開けでるときと閉じでるとぎは力の入れ具合ってのが違っでくるもんな。
 そんなごと考ぇてだらようやく暗闇にいるってこどには慣れてきだ。
 だからって自分がどうしてこんな処にいるのか、いんや。その前にここが何処だかすら判っでねぇんだ。こんな処にいる理由なんで判る筈はねぇ。
 それなのに全然コワくねぇし、不安でもねぇ。
 どーしてだろうって考えで、ふとオラは誰かの手を握っでるこどに気付いだ。
 手はオラと同じで小さかったけど、とってもあっだかだった。
 そのあっだかさがオラのことを守ってくれでるような気がして全然コワぐながったんだど思う。
 手は何にも言わずにオラを引っ張っでくれる。足下も天井も壁も出口も入口も。何にも見えねぇ暗闇の中を迷わず歩いで行ぐ。
 どのぐらい歩いただかなー?オラが出口なんてずーっとめっかんねぇんじゃねぇかと思い始めでたとぎ、とぉーくの方にちっこい光のようなモンが見えだ。
 オラだちは(たぶん)思わず顔を見合わせて駆けだした。
 光のようなモンは、段々大きく明るくなってくる。
 出口だ!
 オラが嬉しくなってそう叫ぼうとしたどき、あっだかい手は人間の形になっで、オラを振り返った。
 その途端にオラだちはものすんごい光に包まれだ。


「チチ?でーじょーぶか?」
 オラはおっ父に揺さぶられで目が覚めた。
 芝生の上だ。
「オラいったい…。暗闇は?」
 がばっと飛び起ぎであだりを見回しだげど、そごには暗闇どころか人っ子ひどりいながっだ。
「オラ…夢見でたのかな?」
「どしだ?どっか、いでーのか?」  
 おっ父が心配そうにオラの顔を覗ぎこんだ。
 オラは慌てて立ち上がっで体に付いた芝生や土を払うど、
「んん。どこも何どもねぇ。帰るべ」
 おっ父の手を取っで歩ぎだした。
 おっ父の手もあっだかいけど、あのときの手とは違う。
 そう思っだけど、黙っでた。
 そしでそのまま忘れでた。夢だったど思っだんだ。


 ある日オラだちの住むフライパン山の火が燃えすぎで消えなくなっぢまったから、オラはおっ父のおししょーの亀仙人様を訪ねるこどになっだ。
 亀仙人様の持っでいる芭蕉扇を借りるためだ。
 なしてオラが行くのかっで?
 だっておっ父は山と宝を守るってきがねがっだからなー。わがままモンなんだ。
 その途中だ。雲に乗っだ悟空さに出会ったのは。
 悟空さの乗ってだ雲は筋斗雲っづって、心の清い者しが乗れねんだそうだ。
 モヂロン、オラの心は水洗便所のようにキレイだったがら乗れだけどもな。
 筋斗雲の上でオラは悟空さにパンパンされぢまっだ!
 オラ、オラもう悟空さとケッコンするしがねぇ!!
「なあ、悟空さ。もちっとおっぎくなっだらオラのこどお嫁にもらっでくれるだか?」 
「?何かしんねぇけどくれるってモンはもらうぞ、オラ」
「ほんどだな?待っでるだぞ?」
 そーゆーわけでオラは、もちっとおっぎくなったら悟空さの嫁になることになっだ。

 世のなが何が起ごるか判んねぇもんだ。


 どころがいつまで経っても悟空さはオラを迎えにきやしねぇ。 
 指折り数えているうぢに、オラもすっがり良いお年頃だ。
 風の噂で、都でやっでる「天下一武闘会」に悟空さが出場するっで訊いたんで、早速オラも出掛けるごとにした。
 会場に入っであちこぢを見回しでたら、いだいだ。
「孫悟空」
 オラはいきなり声をかけだ。きっとびっくりするぞー。
 自分で言うのもナンだけど、オラなかなかのべっぴんだし。
 ところが、オラの声に振り返っだ悟空さは、きょとんとした顔になっで、
「だれだ?おめぇ」
 な〜んで言いやがっただ!!
 オラあっだまにきで、思いっきり
「バカッ!!」
 って怒鳴ってやった。
 信じらんねぇだ。オラは悟空さがお嫁にもらいにきでくれるのをずーっと待っでたのに、当の悟空さはオラの顔はおろか名前も覚えちゃいねかったんだ!!
 そう思っだらますますあだまにきで、本戦で悟空さをこてんぱんにやっつけでやるつもりだったんだけど、やっぱ悟空さは強かっただ。
 あっという間にオラ、負げちまった。流石にオラがダンナにと見込んだだけはある。
「約束どおりおめぇの名前、教えてくれよ」
 仕方ねぇ。試合の途中でオラに勝っだら名前教えるっで約束しぢまっだからな。
「牛魔王の娘のチチだべ」
 そんとぎの悟空さの顔っだらながったなー。
 でも、悟空さはちゃぁんど約束を思い出してオラとケッコンするっで言っでくれた。
 そいでオラだぢは夫婦になったんだ。


 武闘会が終わっでからオラだちは新婚旅行に行っだ。
 どんな場所でも筋斗雲でひとっ飛び。筋斗雲から見る景色は見事なもんだ。
 でも、筋斗雲の下に広がる草原は青々とした草が柔らかそうだ。こんなに良いお天気だし、とぎには地面の上も歩いでみてぇ。
 そう言ったら悟空さはあっさり筋斗雲から降りだ。
 そよそよそよそよ
 風が良い気持ちだ。軽ぐ目を閉じて歩いでたらうっかりつまずいちまった。
「おいおい。でーじょーぶか?」
 悟空さは笑ってそう言いながら手を伸ばしでくれだ。
 おっぎな手だ。
 オラはなんどなく嬉しくなっで悟空さの手を握って立ち上がった。
 途端に。オラの中で何かがはじけだ。
「なんか、前にもチチの手を握ったことあるよーな気がすんなー?」
 悟空さが首を傾げながらそう言った。
 オラも、頷きながら、
「今、オラもそう言おうどしたとこだ」
 悟空さはオラを振り返るど、
「不思議だなー?でもぜんぜんイヤじゃねー。なんか良いカンジだ」
「うん。そーだな」
 オラだちは顔を見合わせでにっこり笑っだ。
 そよそよそよそよ
 風が吹いでる。 草原の草に太陽が反射しでる。
 その光の中の悟空さが夢の中のあの子とだぶった。
 ――夢なんかじゃながったのかもしれない――
 オラは握った手に力を込めた。
 そよそよそよそよ 風が吹ぐ。
 夢から繋がっでる手と手と手。


 ――この手はゼッタイ離さねぇ――


 オラだちはまた顔を見合わせで笑った。

〈おわり〉
   




2000.09.26


ふ・・・ふふふふ・・・。青藺の相棒、大沢さんよりいただき(?)ました
ショート小説です。
ショートは苦手だってーのに、ありがとうねん。
(とか言って、無理言ったのは自分のくせに。笑。)
ネタ的にはずーーーっと書きたかった話らしいです。
悟空&チチ。このカップル、大好きなんですよね。青藺も大沢も。
でも。
この二人は一緒に仲良く歳をとっていって欲しかったなあ。
・・・でも。チチさんの惚れた悟空さんはそーゆー人ではないし。
チチさんがいっぱい考えるほど、悟空さんは考えない人だし。
苦労症だもんなあ。チチさんは。(^_^;)
それでもさ。
お互いの何でも無い仕草や身近な体温に、幸せを感じられれば。いいよね?

いいの。二人が幸せなら。





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