ピッコロは今日も一人イライラしていた。 何故かと云えば、もう1ヶ月も悟空と会っていないのだ。 1ヶ月前まではこの天界で2日と開けずに組み手修行をしていたのに。 なのに何の連絡も無く、悟空は天界を訪れなくなった。 だからと云って自分から会いに行くのは自分が悟空にベタ惚れなのを認めるようでなんだか悔しい。 自分のプライドが許さないのであろうか? 変な意地を張っているのは自分でも判っている。 会いたいが自分から行きたくはない。 そんなジレンマに悩まされているのでピッコロは自身の修行にも身が入らない。 第一こちらから会いに行ったとしても、どうせ悟空の事だから『何しにきたんだ?』と平然とした顔で言われてしまうのがオチだ。
「・・・ったく、あの馬鹿は!!何故オレの所で修行しないんだ!!あの修行馬鹿が1ヶ月も来ないなんて異常すぎる!一体何をしてるんだ!!アイツは!!」
自室で一人愚痴りながら部屋の中をウロウロする。 愚痴と言うより怒鳴っている感じである。 もちろん、デンデやポポにもその声は思いっきり聞こえている。 ここ何日かはずっとこんな調子なので、口には出さないが、ピッコロと悟空の関係を一応知っている二人は敢えてピッコロの部屋には近付かない。 触らぬ神に祟りなし・・・といったトコロであろうか。
「ふぅ・・・」
ひとしきり怒鳴って・・・いや、愚痴って少しはすっきりしたのか、そばにある椅子に腰掛けた。 そして机の上にある書物を手に取り、読み始める。 元・神様とはいえ、まだピッコロにも判らないことは多少なりある。 自分が判らないのでは、現・神様であるデンデに教える事は出来るはずもない。 なので、手の空いたときにはこうして書物に目を通す事にしている。 しばらくして、読み終えた書物を書庫に戻しに行こうと立ち上がったその時、ピッコロはある人物の気を感じ取った。
「・・・悟空か・・・?」
その気を感じ取った瞬間、ピッコロの顔が無意識のうちに僅かではあるがほころぶ。 が、自分の顔がほころんでいることに気が付いたピッコロはあわてて顔を引き締めた。 その気の持ち主はこの天界に向かって来ている。 そしてその気は神殿に降り立った。 ピッコロは手に持っていた書物を放り投げ、自室から飛び出してその気に向かって駆け出す。 書物を放り投げて駆け出すなんていつものピッコロらしからぬ行動である。 それほどまでに会いたかったのならば、意地を張らずに自分から会いに行けばいいものを・・・ 相変わらずプライドが高いというか、変なところに拘るというか・・・要するに自分の感情に素直になれない男なのである。 あわてて駆けつけたその先では、その気をもつ人物がなにやらデンデと話をしている。 四方に跳ねている癖の強い黒髪に陽気な笑い声、そしてなにより山吹色の道着。 まさしくピッコロが待ち望んでいたであろう人物の姿だ。 ピッコロは逸る気持ちを押さえ、ほころぶ表情を引き締めながらその人物に近付いて行く。 すぐ傍まで近付いたところで、ピッコロの気配に気付いたその人物が振り返った。 そしてピッコロに向かって脳天気な明るい声を発する。
「あ、ピッコロさん。お久しぶりで〜す」
「はぁ?」
ピッコロは我が耳を疑った。 確か今この男は自分の事を『ピッコロさん』と呼んだのではないか!?と、俯いてしばし自問自答してみる。 そして何かに気付いたのか、ハッとして顔を上げる。 よく感じ取ってみれば、その気は悟空にそっくりではあるが微妙に違う。 髪型や顔、服装は悟空とまるっきり同じではあるが背は悟空より10cm程小さい。 四方に跳ねた癖の強い黒髪・山吹色の道着を着たその人物は、ピッコロの待っていた『孫悟空』ではなく、その息子の『孫悟天』だったのだ。 自分が情けなくなったのか、ピッコロは激しく肩を落としガックリとうなだれる。 普段の自分なら悟空の気を間違うことはないと絶対の自信を持っていた。 悟空に1ヶ月もの間会えなかった事が、ピッコロに冷静な判断力を失わせたようだ。 そんなに会いたかったのなら無理せずに会いに行けばいいのに・・・ 落ち込んでいるピッコロに怪訝そうな表情をした悟天が声を掛ける。
「ぴ、ピッコロさん・・・どうかした?」
「い、いや・・・何でもない・・・ちょっと目眩がしただけだ・・・」
そう言って額を押さえながらピッコロは大きくため息を付いた。 しかしすぐに気を取り直して、悟天の格好の訳を聞く。
「それはそうとして。悟天、貴様のその格好は一体なんだ?」
既に修行をやめてしまっている筈の悟天が道着を・・・ましてや悟空と同じ道着を身につけているというのがどうにも納得がいかない。 しかも強引に変えたはずの髪型までも以前の悟空と同じ髪型に戻ってしまっている。 一体どういうことなのか? 大体、悟天がこんな格好をしているから尚更悟空と見間違えてしまったのだ。 紛らわしいことこの上無い。
「あ、コレ?ベジータさんを騙そうと思ってしてみたんだけどさ〜。でもすぐにバレちゃって」
なんともくだらない理由である。 そもそも、ベジータを騙そうなんてあまりにも無謀な話だ。 どうせこんなくだらないことを考えついたのはトランクスであろう。 ピッコロがあまりにくだらない理由に頭を痛めているのも気付かず、悟天は話を続けている。
「それで思いっきり殴られちゃったんだよね〜。ボクとトランクス君。せめてあの場にお父さんが居なければちょっとは騙せたのにさぁ〜。まさかベジータさんとお父さんが一緒に修行してるなんて思わなかったからさぁ・・・」
悟天の言葉にピッコロの口元が一瞬引きつった。
「悟天、今なんと言った?」
「へ?何って・・・」
ピッコロの質問の意味が分からず、悟天はきょとんとしている。 その悟天の反応にピッコロの頭に血が上る。
「悟空が誰と修行してるんだと言ったんだ!もう一度言ってみろ!!」
いまにも掴みかからんばかりの剣幕でピッコロは悟天に怒鳴りつける。 あまりのピッコロの迫力に押され、悟天は顔を強ばらせながら恐る恐る答えた。
「べ、ベジータさんと重力室で修行してたみたいです・・・」
それを聞いたピッコロはますます頭に血が上ってしまったようだ。 その勢いでピッコロが悟天の胸ぐらを掴んで体を持ち上げる。
「なんで悟空がベジータなんかと修行してるんだっ!?」
「し、知らないよ〜。ボクはてっきりピッコロさんと修行してると思ってたんだから〜っ」
「何だとぉ〜っ!?」
いきなり胸ぐらを掴まれて、訳も分からず怒鳴られた悟天は今にも泣きそうな表情だ。 それになんだか苦しそうである。 二人のやりとりに見かねたデンデあわてて止めに入る。
「ぴ、ピッコロさん。ベジータさんと悟空さんが修行してるのは悟天さんの所為じゃ無いんですから。少し落ち着いて下さい。・・・それに早くその手を離してあげないと悟天さんが窒息しちゃいますよ」
デンデの言葉でを聞いたピッコロは、胸ぐらを掴みあげている悟天の顔に目をやる。 確かにデンデの言った通り、息が詰まって苦しそうだ。
「ピ・・・ッコロ・・・さん・・・く、苦し・・・いって・・・ば・・・」
掠れ掠れ、苦しげな声を悟天が発し、ピッコロの手を叩く。 その声でやっと正気に戻ったピッコロがあわてて手を離す。 掴まれて宙に浮いていた悟天の体はそのまま床に落ちた。
「いって〜!!もう!!ピッコロさん、一体何だって言うのさ〜!!」
悟天の不満はもっともである。 わけも判らず怒鳴られるわ、胸ぐらを掴まれるわ、挙げ句の果てに落っことされたのだから。
「いや、すまん。つい・・・」
ピッコロは気まずそうな顔をして取りあえず詫びた。 さすがに悪いと思ったらしい。 様子のおかしいピッコロを不審に思った悟天が首を傾げながら口を開いた。
「ピッコロさん・・・そんなにお父さんの事が気になるの?」
「なっ・・・!!」
図星をついた悟天の言葉にピッコロは激しく動揺した。 顔が僅かに赤くなり、表情が強ばる。 額からはめったにかかない汗が流れ、目が泳いでいた。
「だ、誰がアイツの事を気になど・・・」
必死に否定をしてみるが、その挙動不審な態度が悟天の言葉に対して『その通りだ』と言っているのも同然である。 普段は何を考えているか判らないピッコロも、悟空の事となると実にわかりやすい態度になるようだ。 慌てふためいているピッコロの様子を眺めていた悟天が、半ば呆れながら提案してみる。
「ねぇピッコロさん。お父さんの事がそんなに気になるなら、ここに連れてきてあげようか?」
「何!?本当かっ!?」
悟天の提案を聞いたピッコロは、思わず悟天に詰め寄った。 その迫力に気おされながら悟天はこくこくと頷いた。 ピッコロが傍から離れた悟天はホッと胸を撫で下ろす。 そして、ついうっかり口を滑らした。
「やっぱりお父さんのこと気になってんじゃん。素直じゃないなぁ〜。なんかピッコロさんってばカワイイ〜♪」
−ゴンッ
その言葉を発した瞬間、ピッコロの拳が悟天の頭上に落ちていた。 それにしても、ピッコロに向かってカワイイなどという発言をするなんて命知らずも程があるというものだ。 まさに『口は災いの元』である。 もちろん、悟天がこれからはそういうことは思うだけにしておこうと決めたのは言うまでもない。
翌日、悟天がどう言ったのかはわからないが、1ヶ月振りに悟空が神殿にやってきた。
「おっす!ピッコロ、久しぶりだな〜」
相変わらず脳天気な声でピッコロに話かける。 その脳天気さに、ピッコロは自分一人が会えなくてイラついていたのだと感じ、無性に腹が立った。しかしそれを表に出せば、何に対してかは不明だが、負けた気がするので必死に隠す。 が、顔はどこかムスッとして不満そうである。 鈍い悟空はそんなピッコロの気持ちに気付く筈もなく、相変わらず脳天気に話し掛けてくる。
「なぁ、ピッコロ。どうかしたんか?」
いつまでもムスッとしているピッコロの顔を不思議そうに覗き込む。
「・・・別に何でもない」
素っ気なく答え、顔を背ける。 その態度に今度は悟空がムスッとなった。 そして拗ねた様な口調でピッコロに言葉を投げかける。
「なんだよ、1ヶ月振りだってのにさ。おめえ、オラに会いたくて仕方ねえんじゃなかったのか?」
「な、なな・・・何だと!?誰がそんなこと・・・っ・・・」
顔を強ばらせて上擦った声で反論する。 ピッコロは明らかに動揺していた。 一体、悟天は何をどう悟空に伝えたのだろうか? さすがの悟空も、ピッコロの狼狽え振りには気が付いたようだ。 そして少し勝ち誇ったかの様な声でピッコロに対して言葉を続ける。
「悟天がそう言ってたぞ。おめえがす〜っごくオラに会いたくて仕方ないっつって悟天に必死に頼み込んだ・・・ってさぁ」
ピッコロは目眩がしてきた。 額に手を当て、俯き、大きなため息をつく。 やはり悟天に頼むべきでは無かったとひどく後悔していたのだ。 大体、自分は悟空に会いたいとは心の中で思っていても、一言も悟天には漏らしていない筈だ。 ましてや頼み込んでなどいない。(本人に自覚の無いまま態度に出ていたようだが・・・) しばらく額に手を当てたままの状態だったピッコロはおもむろに顔を上げ、悟空の手首を掴みあげた。
「悟空、ちょっと来い!」
悟空の手首を掴んだまま自室の方へ歩き出す。
「ちょっ・・・ピッコロ?いってえ何なんだ!?」
訳が分からず、自分の手首を掴んでいるピッコロの手をふりほどく。 しかしピッコロは悟空を真剣な目つきで見つめ、再びその手首を先程より強い力で掴む。
「いいから黙ってついて来い!!」
強引に悟空の手を引っ張り、再び歩き出す。 ピッコロのあまりに真剣な眼差しに、悟空は抵抗をやめ、そのまま引っ張られていった。 神殿の中にあるピッコロの自室に入りドアを閉めると、ピッコロは悟空から手を離した。 悟空は掴まれていた手首を少し大げさな位にさすりながら、上目遣いにピッコロの顔を見る。
「ピッコロ、何イラついてんだよ。オラ、おめえに何かしたか?」
きょとんとした悟空の表情に、ピッコロはますます苛立ちを覚えた。
「『何かしたか?』だと!?ふざけるな!!!キサマ、自分のしたことが判っていないのかっ!?まったく、鈍いにも程があるぞ!!」
ピッコロに怒鳴られて、さすがの悟空もムッとする。 そんな悟空には全く気付かずに、ピッコロはまだぶつくさ文句を言い続けている。 だんだんと悟空も苛つきだし、ついにそれが爆発した。 次の瞬間、悟空はピッコロの胸ぐらに掴みかかっていた。
「おめえ、さっきから一体何だってんだよ!!何に苛ついてんだかしんねーけど、オラに当たるなよな!!オラが何かしたってんならハッキリ言ってくんなきゃわかんねーよ!!おめえがいつまでもそんなんならオラ帰っちまうぞ!!」
悟空の怒鳴り声で、ピッコロの頭にカーッと血が昇り、悟空の胸ぐらを掴んだ。
「なんだと!?大体キサマが1ヶ月も来ないせいじゃないか!!しかもよりにもよってその間にベジータと修行してたそうじゃないか!!アイツと修行するくらいなら何故オレの所にこないんだ!?オレでは役不足だとでもいうのか!?オレがこの1ヶ月どんな気持ちでいたと思って・・・っ・・・」
そこまで言ってピッコロはハッとして悟空から手を離し、顔を逸らす。 興奮の余り、つい口が滑って本心を言ってしまったようだ。 ピッコロの顔が耳まで真っ赤になっていく。
「ピッコロ・・・?」
真っ赤になったピッコロの顔を覗き込む。 その顔は、照れているような、バツの悪いような、本当に困った表情になっていた。 しばしその赤い顔を見つめていた悟空が、何かに気付いた。
「おめえ・・・ひょっとしてヤキモチ焼いてんくれてんのか・・・?」
「・・・なっ・・・!!」
悟空の言葉にピッコロの顔はますます赤くなり、湯気でも出てきそうなくらいだ。 思いっきり図星だったようである。
そのピッコロの様子を見ている悟空の顔が自然とほころんでくる。 目の前に居る真っ赤な顔をした人物が愛おしくてたまらない。 ピッコロの広い背中に両腕を回し、そっと抱きついて顔を見上げた。
「ピッコロ・・・オラ、おめえがヤキモチ焼いてくれて、なんか嬉しいぞ」
そう言ってピッコロの胸に顔を寄せた。 抱きつかれたことで、漸く落ち着きを取り戻したピッコロが、申し訳なさそうに呟く。
「悟空・・・その・・・さっきは悪かった・・・つい・・・」
「別に、気にしちゃいねえよ」
ニッコリといつもの笑顔でピッコロの顔を見つめ、ピッコロも僅かに微笑みながら悟空のその笑顔を見つめた。
「悟空・・・」
ピッコロの大きな掌が悟空の頬に優しく触れる。
「ピッコロ・・・」
それに応えるように、背中に回されていた悟空の腕がピッコロの首に回される。 そのまま互いの顔が近付き、唇が触れた。 軽い口付けの後、悟空が何かを思い出した様に口を開く。
「そういやさぁ、オラがベジータと一緒に修行してた事、何でおめえが知ってたんだ?」
それを聞いて、ピッコロも思い出したように真剣な表情で悟空に問いただす。
「悟天から聞いた。それよりも、なんでオレの所に来ないでベジータなんかと修行してたんだ?」
その問い掛けに対し、ピッコロの顔を恨めしそうに上目遣いで見ながらぼそぼそと言葉を発する。
「だってよぉ・・・おめえが、忙しいからオラの相手してらんねぇって言うから・・・」
その言葉に、ピッコロはしばし考え込む。 果たしてそんなことを言っただろうか?
「・・・あ!!」
ここで話を1ヶ月前にさかのぼってみる。 その日、悟空はいつも通りピッコロと組み手をするために神殿を訪れた。 たまたまその時のピッコロは膨大な量の書物が治まっている書庫の整理をしていた。
「なぁ〜ピッコロぉ〜、本の片付けなんてまた今度にしてさ〜、組み手しようぜ〜。なぁ〜ってば〜」
作業中のピッコロに組み手をしようとしつこくまとわりつく悟空。
「やかましいっ!!もうすぐ片づくからおとなしく待っていろ!!」
その悟空に少々うんざりしているピッコロ。
「ちぇ〜っ・・・」
つまらなさそうに近くにあった書棚に手をかけた。 次の瞬間、悟空が手をかけた書棚が大きな音を立ててピッコロの真上に倒れた。
「あ、やべ・・・。わりぃ、ピッコロ・・・で、でぇじょうぶか・・・?」
崩れ落ちた大量の書物の中からピッコロが頭を押さえながらヨロヨロと起きあがってきた。 そして悟空をキッと睨み付けると、神殿中に響くのではないかというくらいの大声で悟空を怒鳴りつけた。
「この馬鹿が!!キサマはオレの邪魔をしに来たのか!?オレは忙しいんだ!!キサマの相手ばかりしてられんのだっ!!わかったらさっさと帰れ!!」
悟空は渋々と帰っていった。 その翌日から悟空は神殿に来なくなった。
・・・確かにはっきり『相手をしていられない』と言っている。 ピッコロはその時の事をすっかり忘れてしまっていた。 素直な悟空はそれを真に受けてしまい、来たくても神殿に来られないでいたというわけだ。
「オラだっておめえに会いたかったし、組み手もしたかったんだぞ・・・。でもおめえがオラの相手してらんねぇって言うからさぁ・・・悟飯は忙しくて修行の相手してくんねぇし、悟天はデートだかなんだかでいっつも家にいねえし。だから仕方なくベジータと修行してたんだぜ」
そっぽを向き、思いっきり拗ねた口調でピッコロに文句を言う。 まさかあの言葉を真に受けていたとは・・・とピッコロは苦笑する。 素直な悟空らしいといえばらしいのだが・・・ とにかく、今回のこの一件はピッコロ自ら発した言葉が原因だったわけだ。 もちろんピッコロもそのことはよ〜く分かっているようで、気まずそうな表情で壁に向かい落ち込んでしまっている。 あんなにもイライラを色々と周りに当たり散らしていただけに、自己嫌悪もそうとうなもののようだ。悟空はといえば、あのピッコロがヤキモチを焼いてくれた事がそうとう嬉しかったらしく、先程からニヤけている。 そして何かを思いついたのか、悟空は壁に向かって落ち込んでいるピッコロにソーッと近付いていき、壁とピッコロの間に滑り込むようにして入り込んだ。
「なっ・・・!?」
落ち込んでいたせいで悟空の接近に気が付いていなかったピッコロは驚いて思わず身を引いた。
「なぁピッコロ、オラのこと好きか?」
あまりに唐突な悟空の質問に、ピッコロの目は点になってしまった。 一体、この男は何故こうも何の脈絡も無い話を突然するのだろうか? などと考えながらその男の顔を見つめる。 ピッコロが答えないので、悟空は尚もしつこく聞いてくる。
「なぁなぁ、どうなんだ?オラの事好きか?」
「そ、そんな事わざわざ聞かんとわからんのか!!」
顔を赤くして、狼狽えながら言い捨てる。
「わかんね〜よっ!だっておめえ、一回も言ってくれたことねぇじゃねえかよ!!」
不満たっぷりにそう言って、悟空はまるで子供のようにぷぅっと頬を膨らませる。 そう、ピッコロは今までに一度も悟空に『好きだ』と言った事がないのである。 ピッコロの性格上、そんなことを言うとは思えないが・・・
「言ってくんね〜と、もう神殿に来てやんね〜ぞっ!それに、またベジータと修行すっぞ!!え〜っと・・・あ!口笛だって吹いちまうぞっ!!!」
なんとしてもピッコロからの一言が聞きたい悟空はピッコロがされたら嫌がるであろう事を次々と並べたてる。 まるでだだっ子のような悟空に、ピッコロは大きくため息をついて苦笑した。
(まったく、コイツにはかなわんな・・・)
そして悟空の耳元に顔を寄せ、普段からは考えられないくらい優しい声で囁く。
「・・・今回だけだぞ」
「ホントか?」
悟空の顔が嬉しさでほころんだ。 腕をピッコロの背中に回し、しっかりと抱きついてピッコロからのその言葉を待つ。
「一度しか言わないからな・・・」
「ああ♪」
しかし、ピッコロの口はなにやらモゴモゴしているだけで、なかなかその言葉を口にしない。 やはりその言葉を口にするのはどうも照れくさいというか、性に合わないらしい。 いつまでもその言葉を言ってくれないピッコロに悟空がしびれを切らし、ピッコロの顔を上目遣いで見つめる。
「なぁ、まだかぁ?」
甘えた様な悟空の表情と声に、ピッコロの胸がキュ〜っと締め付けられる。 あまりにも誘惑的(あくまでピッコロがそう感じているだけ)なその仕草に我慢出来なくなったピッコロは思わず悟空の唇を奪う。 そして唇を離し、再び耳元に顔を寄せて囁いた。
「・・・お前を愛してる。今も、そしてこれからも・・・」
言葉を口にしたピッコロの顔はこれでもかというくらい真っ赤になった。 だが、予想以上に甘く、望んだ以上の言葉を囁かれた悟空の顔はピッコロ以上に真っ赤になっていた。 そして、その真っ赤になった顔をピッコロの胸に寄せて呟いた。
「・・・オラもだ」
その後、二人が部屋の中で何をしていたかは不明である。 ただ、ピッコロの機嫌が格段に良くなっていた事だけは確かなようだ。
そして次の日から悟空は再び神殿で修行するようになったのは言うまでもない・・・
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